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DATE: CATEGORY:あかりの思い出
夕食が出来上がると、お勝手から茶の間まで総出で運び込みました。食材をこぼさないように、ボタンのやわらかな手触りを楽しみながら、母や祖母の手元と足下を緊張して照らしていました。

夏の夕食で思い起こすのは、野菜たっぷりのくじら汁です。近くのおばあちゃんが祖母と同級生だということで、獲れたてのユウガオ、冬瓜、デカキュウリなどを持ってきてくれました。祖母が裏庭で育てていたにんじんと丸なすを収穫すると、魚屋さんから買ってきたばかりのおばけと呼ばれる鯨頭部の軟骨を塩出しして、出し汁を取ります。その後、ざく切りにした野菜を加えて煮込み、自前の味噌を加えてさらに煮込み、出来上がりです。
食器を運び込むと、母は、裸電球を茶の間に移動させました。スライドを下げるとホッとして母にほほえみかけました。早生まれの私は、母に『手ぼこ。』と言われ、不器用さを叱られてばかりいました。しかし、N-35のおかげで、責任あるお手伝いが出来て、喜びをかみしめていました。すぐに使うので、隣室の机の上に落下しないように置きました。

みんな揃っての夕食は、なぜかホッとする空間です。テレビは限られた時間にしか映らなかったし、ラジオから聞こえてくる音楽や情報はだんらんを邪魔しない共通の情報源でした。ゆったりとした昭和30年代の食卓は、旧家の間取りとともに、今でも、私の心の原風景です。

夕食が終わると、入浴時間になりました。浴室には裸電球がついていました。当時、五右衛門風呂の我が家から考えると、檜風呂は、ずいぶん贅沢なものだったと思い起こしています。入浴後、着替え終わると、母といっしょに裏庭に夕涼みに出ました。

「おんもへ行ってみようか。でんち持って行こうね。」

「はい。こうやって点けているんだよね。お母さん触って。」

点灯操作をするとき、親指と人差しに触れてもらうのが楽しみでした。

「じょうずになったね。」

「う-ん。だんだん早く点けられるようになってきたよ。」

「スッスッと動かしているね。」

ボタンを親指と人差し指で挟むと、筒先を上に向け、目元で点灯を確認できるようにしました。

「点いた点いた。まぶしい!!」

指先をリズミカルに動かしフラッシュさせると、母と微笑み合っていました。

「あっ、シーシーしたい。」

「こっちにおいで。足下しっかり照らして。」

「はい。もう1つ上げてみるね。」

柿の木の下の草むらに行くと、スライドを常時点灯に切り替え、指先を再びリズミカルに動かしていました。一瞬チラついても無事点灯を維持できていました。手をつないでもらっているけれど、母に教わったとおり、自分が主体になって動作してみました。筒先をズボンに向け、腕を引きながら光の輪を縮め、焦点を強くしました。左手でズボンのチャックを下ろしました。おちんちんを出し狙いを定めると、腕を押し筒先を藪に向け、光の輪を広げ、焦点を弱くし、用便を始めました。

「いっぱい出ているね。」

「はい。」

終わると、ズボンをうまく整え、筒先を足下に向け、光の輪を縮め、焦点を強くしました。畑の入口まで歩きました。

「気をつけて。だんだんだよ。ここに座って涼もうね。」

石段の一番上に腰を下ろしました。

「はい。」

「クリーム色ってきれーい。」

常時点灯にして親指も人差し指もスライドにのせ、ボタンから指を離すと、暗闇に映えていて喜んでいました。

「そうだね。」

「お手てが真っ赤。」

左手のひらでレンズをふさぎ、左の親指と人差し指でボタンを挟んでいました。

「血が流れているのがわかるね。」

歌が大好きな母は、いろいろな歌を歌って教えてくれました。

「ほら、虫さんがきた。」

「シェードが明るいからね。あそこ見てごらん。蛍が飛んでいるよ。」

母は筒先を光源に向けさせました。

「ほんとうだ。光っている。」

母に指し示してもらってあちこちを照らして遊んでみました。畑の野菜と花が浮き出て見えました。耳を澄ますと、遠くで終列車の音が響いていました。田圃に流れる用水の音や潮騒が聞こえ、田舎らしいのどかな闇の世界が広がっていました。

しばらく座ると汗が引いていきました。再び裏庭の通路を照らしながら、縁側に戻りました。

「足を拭いて。」

「はい。」

「でんち拭いて。」

「はい。」

消灯させてぞうきんで丁寧に拭きました。

「ここが熱い。」

レンズとシェードを拭いていたら、高熱になっているのがわかり、一瞬指先を引きました。

「こっちも長いこと点けていたからね。」

「うーん。」

床の間に戻りました。スポットライトのように焦点を広げて天井を照らしながら、母とおしゃべりしていました。足軽長屋らしいお宝がたくさんあったので驚いていました。

「ねぇ、あの新聞紙なぁに。」

「長刀だよ。」

「うーん。あれは?」

「お琴だよ。お母さん小さいとき、習っていたんだよ。」

「そう。いろんなものがあるんだね。」

床の間にある丸窓や掛け軸が、昼間とはまた違った雰囲気で浮き出るように見えていました。
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